東京・杉並区ガイドのポイント〜アニメと緑と文化の街〜

通訳ガイドスキルアップ

今回は、杉並区をガイドする際のポイントをまとめてみます。

杉並区は都心とはひと味違った個性的で魅力あふれるスポットが満載です。
外国人旅行者をお連れする場所といえば、渋谷や原宿、浅草などがすぐに思いつくかと思いますが、杉並区は都心から近くアクセスがよい上に、東京のローカルな部分を楽しみつつ、旅行者も楽しめる観光スポットが多く存在します。
まだまだ隠れた杉並区の魅力をどうやって外国人旅行者に伝えるか、そのヒントになれば幸いです。

【ガイドライター】
齋藤 一美(さいとう かずみ)
—————–
2016年に英語全国通訳案内士資格取得。通訳ガイド派遣会社でのコーディネーター職を経てフリーランスの通訳ガイドに。コロナ禍の現在は前職の介護福祉士として高齢者ケアの仕事に従事中。グーグルマップを見ながら妄想旅のプランをあれこれ練ってるときが至福の時間。

杉並区の特徴

杉並区の特徴はさまざまな側面があり、ひとことで表すのは難しいかもしれません。

・閑静な住宅街
・公園や緑が多くゆったりした雰囲気
・文化的で治安がよい
・都心からも近く電車やバスなどの利便性がよい

…など、住環境のよさも特徴のひとつですが、
杉並区はそんな大人しいだけのまちではないのです!

杉並区の人気エリアであるJR中央線の高円寺、阿佐ヶ谷、荻窪、西荻窪などの駅周辺は、数多くの賑やかな商店街や、あらゆるジャンルの個性的なお店が軒を連ねています。

「高円寺阿波踊り」や「阿佐ヶ谷七夕まつり」をはじめ、さまざまな世代の人々が楽しめるお祭りやイベントが、一年を通して区内あちこちで数多く開催され(中にはかなり個性強めのイベントも!)、
街全体が元気で楽しいこと好きというのも、杉並区の大きな魅力になっています。

そして昭和のころから杉並区は「中央線カルチャー」の中心地であり、アートや音楽、アニメ、映画、演劇、文学、ファッションなど、あらゆる分野の文化人に愛されている土地でもあります。

外国人ゲストを案内したい杉並区の観光スポット

高円寺エリア

高円寺の街の中心には数々の商店街が広がり、八百屋さんやお茶屋さん、スーパーなどで地元のお年寄りやお母さんたちが普通に買い物をしている、どこか懐かしく、のんびりとした雰囲気がある一方、アートやロックの街として有名だったりします。

また、無数の古着屋、昭和レトロな喫茶店や雑貨店、カレー、多国籍料理店などを求め、多くの若者も訪れます。
さまざまな世代の人たちが共存し、ありとあらゆる文化が見事に調和していて、人情味あふれる高円寺は、外国人ゲストの心も間違いなく掴むことでしょう。

そして高円寺といえば「高円寺阿波踊り」ですよね!
「高円寺阿波踊り」は、1957年に徳島の阿波踊りを参考にした「高円寺ばか踊り」として始まりました。
その後年々規模が大きくなり、今では約1万人が踊り、100万人を超える見物客が訪れる東京を代表するお祭りのひとつとなりました。その他、「高円寺びっくり大道芸」や「高円寺フェス」など、四季を通じて楽しいお祭りやイベントが開催されており、高円寺は何だかんだと一年中活気があります。

▶︎高円寺おすすめスポット

座・高円寺・・・2009年5月に、舞台芸術の創造と発信、そして地域に根ざした文化活動の拠点として開館した杉並区の劇場、ホールです。世界的に有名な建築家である伊藤豊雄氏がテントをイメージして設計した建物は独創的で、建築好きの外国人ゲストにもとても興味を持たれます。

長仙寺・・・1704年創建の真言宗の寺院。現在の社殿は戦後の再建。室町時代の作といわれている本尊の不動明王像は区指定文化財で1945年の戦火の中、当時の住職が抱いて逃げたため消失を免れたとのこと。境内の如意輪観音の石仏は右手を頬に当てている姿が歯痛を堪えているように見えることから「歯神様」として昔から親しまれています。

気象神社・・・日本で唯一のお天気にご利益のある神社。1944年に大日本帝国陸軍の陸軍気象部の構内に造営された神社で、戦後の神道指令で撤去されるはずでしたが、調査漏れにより残存し、高円寺氷川神社に末社として遷座されることになったとのことです。映画「天気の子」の聖地としても有名。また、月替わりのカラフルでかわいい御朱印が人気です。

パル商店街・・・高円寺では唯一のアーケードのある商店街。高円寺阿波踊りは、パル商店街の青年部の人たちによる地域活性のためのイベントとして生まれました。商店街入口付近には高円寺阿波踊り発祥の地として男踊りと女踊りの絵が彫られた石柱があります。また、商店街にある豊喜屋さんでは阿波踊りの用品がすべて揃います。

大一市場・・・高円寺駅から徒歩1〜2分の場所にある飲食店街。元々は乾物などを扱う市場でしたが、店主たちが次々と引退した後にベトナム料理店や世界中の料理が楽しめるレストラン、カレー店、ラーメン店などの飲食店がオープンしました。屋内は日本離れしたかなり独特の雰囲気が漂っており、初めて一人で入るのはちょっと勇気がいるかもしれませんが、知る人ぞ知る、おすすめのグルメスポットです。

ミューラルアート・・・多くのアーティストが住む街・高円寺を、東京のアートの街にしたいという思いから、街のあちこちにミューラルアート(巨大壁画)を施し、新たな観光スポットを目指して、「BnA hotel Koenji」が「Mural City Project Koenji」というプロジェクトを始動しました。高円寺を散策しながら壁画探しをすると楽しいですよ。

小杉湯・・・昭和8年創業の銭湯。現在の店主は3代目。浴槽が観客席になる「踊る銭湯」や「銭湯フェス」などのイベントを定期的に開催。メディアで取り上げられることも多く、若者からお年寄りまで幅広い年齢層のお客さんが訪れています。建物の外観は神社のような宮造りになっていて古き良き昔ながらの銭湯という趣き。外国人ゲストに日本の銭湯文化を説明する絶好の場所です。

キタコレビル・・・複数のファッション関連のショップが入っている超個性派のディープスポット。建物の外観と内観のインパクトが大きいです。ディオールのデザイナーやレディ・ガガなどもお忍びで訪れていたとか。

阿佐ヶ谷エリア

阿佐ケ谷は、駅を中心に南北に中杉通りが延びていて、都内でも有数の美しいけやき並木が南の青梅街道まで約600メートル、北の早稲田通りへ約1キロも続いています。
また、かつて「阿佐ヶ谷文士村」と呼ばれたように、多くの著名な文士たちが阿佐ヶ谷界隈に住み、定期的な会合が行われていました。
その名残りか、阿佐ヶ谷には落ち着いた文化的な雰囲気が漂っています。

阿佐ヶ谷は「ジャズの街」としても知られています。ジャズ喫茶が多く、毎年10月末には2日間にわたり「阿佐ヶ谷ジャズストリート」というイベントが開催され、阿佐ヶ谷のまちがジャズ一色に染まります。また、阿佐ヶ谷は飲み屋さんが多く店舗同士の結びつきも深いことから、毎年11月に阿佐ヶ谷と荻窪の約140軒の飲み屋さんをはしご酒できる「阿佐ヶ谷飲み屋さん祭り」というバルイベントも開催されています。

そして忘れてはいけないのが、阿佐ヶ谷の夏の風物詩「阿佐ヶ谷七夕まつり」ですね。
「阿佐ヶ谷七夕まつり」は1954年に地域活性を目的としてスタートし、毎年8月7日を含む5日間開催されます。
ところで「高円寺阿波踊り」はもともと、隣町である阿佐ヶ谷で始まった七夕まつりによって客足が阿佐ヶ谷の商店街へと流れていく危機感とライバル心からつくられたお祭りといわれているので、もし阿佐ヶ谷で七夕まつりが始まらなければ、高円寺阿波踊りも存在していなかったかもしれませんね。

▶︎阿佐ヶ谷おすすめスポット

パールセンター商店街・・・約700メートル続く商店街で、約240の店舗があります。阿佐ヶ谷七夕まつりのメイン会場となるパール商店街のアーケード内は、お祭り開催中、色とりどりの巨大な「くす玉」やバラエティー豊かな「張りぼて」などが吊り下げられ賑わいます。また、阿佐ヶ谷ジャズストリートのパブリック会場にもなっています。

阿佐ヶ谷神明宮・・・天照大御神をお祀りしている神社。伊勢神宮とのつながりも深く、派出所としての役割も担っています。またパワースポットとしても有名です。阿佐ヶ谷駅から徒歩2分の立地ながら約3000坪の敷地を有する巨木に囲まれた心地よい空間が広がっています。

馬橋稲荷神社・・・東京に3つしかない「双龍鳥居」が有名です。左側に「昇り龍」右側に「下り龍」が彫られていて、昇り龍に触りながらお願い事を伝えると、龍がその願いを天に届けてくれ、天に届いた願いが下り龍になって降りてくると信じられています。

善福寺川緑地・・・善福寺川緑地は善福寺川の中流にある1964年に開園した東京ドーム4個分の広さを持つ都立公園です。園内には約400本の桜の木があり、杉並区の桜の名所となっています。

Aさんの庭・・・もともとこの地には大正時代に都市計画に携わった近藤謙三郎の旧邸宅と緑豊かな美しい庭があり、宮崎駿監督が「トトロが住みそうな家」として紹介したこともありました。地域の人々から親しまれていましたが、2009年に不審火で建物が消失し、その後、宮崎監督が公園デザインを提案して2010年に公園として生まれ変わりました。
「Aさんの庭」の「Aさん」とは「公園に来る皆さん」のこと。

ラピュタ阿佐ヶ谷・・・「ラピュタ阿佐ヶ谷」は独自のセレクトで多くの映画ファンから愛されている、座席数が僅か48席の小さな映画館です。1950-70年代の日本映画を中心に企画が組まれており、DVD化されていない作品の上映も多く、幅広い日本映画が鑑賞できます。建物の外観も個性的です。

荻窪エリア

商店街が多い杉並区の中で、荻窪は唯一、駅前に「ルミネ荻窪」と「荻窪タウンセブン」と2つの大型ショッピング施設があり、杉並区のなかでは一番華やかな印象がありますが、商店街から一歩離れれば閑静な住宅街が広がっています。
かつては東京都心から程近い別荘街として「西の鎌倉、東の荻窪」と称されるほどの人気を誇り、特に公爵・近衛文麿の別邸「荻外荘」の優美さは多くの人々に知られていたそうです。

また荻窪は「本の街」と「クラシック音楽の街」という側面もあり、「岩森書店」や「竹中書店」といった質の高い古書店が多く集まっていたり、毎年秋には「荻窪音楽祭」というクラシック音楽のイベントが開催されています。また「名曲喫茶ミニヨン」という老舗の喫茶店も人気です。

そして荻窪といえば、何と言ってもラーメンではないでしょうか。
荻窪のラーメンの歴史は戦後の闇市の頃に遡ります。当時闇市では安くリーズナブルに安価で済ませることができる蕎麦屋さんが非常に多かったのですが、そこから高度経済成長期の中で生き残っていくために多くのお店がラーメン業に転業していったとのことです。

▶荻窪おすすめスポット

春木屋 荻窪本店・・・荻窪には老舗を含め人気のラーメン店がたくさんありますが、中でも「春木屋」は超人気店です。戦後の荻窪で屋台から始まった老舗店で、一番人気は「わんたん麺」。また、荻窪には「春木屋 荻窪本店」と「春木家 本店」と、2軒の”ハルキヤ”があり、「春木屋」の初代店主の修業先が「春木家」だったそうです。

大田黒公園・・・「区立大田黒公園」は、音楽評論家の大田黒元雄氏の屋敷跡を杉並区が日本庭園として整備し、1981年に開園。園内にあるレンガ色の建物は、1933年に大田黒氏が仕事部屋として建てたもので、そのまま記念館となって残っており、館内は無料で見学できます。また記念館は国の登録有形文化財となっています。回遊式日本庭園がとても美しく、紅葉シーズンはライトアップされます。ライトアップ時のみ入場料300円です。

アニメーションミュージアム・・・「東京工芸大学 杉並アニメーションミュージアム」は、日本で初めてのアニメの総合博物館です。荻窪駅からバスと徒歩で約10分、と少し駅から離れていますが、入館料無料で日本のアニメの歴史や原理、制作過程について体験をしながら楽しく学ぶ事が出来ます。杉並区は全国の市区町村の中でもっともアニメ制作会社が多いことから、「アニメのまち」として知られています。

桃井原っぱ公園・・・「桃井原っぱ公園」は名前の通り、敷地いっぱいに原っぱが広がっています。もともとこの地には大正から終戦時まで、航空機・エンジンメーカーの中島飛行機の工場がありました。災害時には避難場所の役割を担う、防災機能を備えた公園でもあります。また、11月初旬開催の杉並区最大級のイベントである「すぎなみフェスタ」のメイン会場になっています。

西荻窪エリア

荻窪と吉祥寺に挟まれた西荻窪は、ゆったりとした雰囲気が魅力のまちです。
アンティーク街として知られており、多くのアンティークショップが立ち並びます。
個性的でおしゃれなアンティークショップやギャラリー、レストラン、カフェ、スイーツ店、パン屋、雑貨店、古書店などが多く集まる魅力いっぱいのエリアです。
またスピリチュアル好きな人も集まってくるエリアのようです。

▶西荻窪おすすめスポット

善福寺公園・・・「善福寺公園」は、1961年に都立公園として開園しました。園内には敷地の約半分を占める善福寺池が広がっており、池を囲むように遊歩道が整備されています。また池周辺は、区内で最も鳥類が豊富に見られる地域のひとつで、日本野鳥の会の創設者である中西悟堂ゆかりの地でもあります。四季折々の自然が堪能でき、春は桜が美しいです。井の頭公園のような名所ほど混雑しないので、桜の季節に外国人ゲストを案内するのにうってつけの、穴場スポットです。

アンティーク街・・・西荻窪はアンティークショップが数多く集まる日本屈指の街です。30〜40年ほど前から西荻窪にアンティークショップが増え始め、「古いものを大切にする街の雰囲気」が自然と店を集めて、今では多様なジャンルのお店が40店以上まちに点在しています。

個性的でおしゃれなカフェ・・・西荻窪はカフェ好きな人の聖地で、おしゃれで個性的なカフェが、アンティーク店同様まちのあちこちに点在しています。コーヒーやケーキ自慢のカフェや喫茶店はもちろん、日本茶や紅茶の専門店、オーガニックカフェ、古民家カフェ、おむつ台のあるワーキングカフェなど、どのお店もこだわりがつまっています。

ピンクの象・・・西荻窪駅南口を出てすぐにある「西荻南口仲通商店会」では、買い物客を宙に浮いたピンクの象が出迎えてくれます。約40年前、商店会でみこしを作る際に子供たちが喜ぶものをとの発案で作られたとのことで、現在は三代目。地元で長く愛されている人気者です。ちなみになぜアーケードにつるされているかというと、大きすぎる張りぼての象の保管場所に困ったためとのこと。9月の荻窪八幡神社の例大祭では子供たちに引かれて街中を練り歩くそうです。

ツアー準備のポイント・注意点

高円寺、阿佐ヶ谷、荻窪、西荻窪はそれぞれが独特の個性がある魅力的なまちですが、特にメジャーな観光スポットがあるわけではありません。
それぞれの、そして東京の他のエリアとの明確な違いを伝えず案内すると、外国人ゲストからするとどこも同じように見えてしまう可能性があります。
それぞれのエリアの特徴をきちんと把握し、下見を重ねて自らおすすめスポットを用意しておくこと、ゲストに無駄歩きをさせたり、飽きさせないよう導線をつくっておくこと、また杉並区がなぜ文化のまちになったか、大正頃からの歴史を知っておくことで、奥の深いガイディングができると思います。
また杉並区はお祭りやイベントがとても多いので、あらかじめ情報を調べておくと、ツアー日とタイミングが合えば案内できて、ゲストに喜ばれるでしょう。

ツアー中の注意点として基本的なことですが、商店街や住宅街などで買い物客や住民たちの迷惑にならないようにガイドすることはとても大切です。また、ゲストが無断で一般の住宅などの写真を撮らないよう注意も必要です。

ガイドが発揮できる価値

杉並区は外国人観光客にとって認知度がまだあまり高くないエリアですが、日本人のふつうの暮らしに興味があったり、サブカル好きの外国人にとって、間違いなく魅力的な場所だと思います。
さらにサブカルといってもジャンルは様々なので、ゲストの好みを把握したツアーができたらゲストの満足度はとても高まるでしょう。また地域の人たちとも交流できるよう橋渡しをしながらガイディングをしたら、ゲストにとって、きっと思い出深い体験になると思います。

海外の人たちが再び日本を観光できるようになったらぜひ杉並区を案内しましょう!

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