私が見た福島沿岸部の今 Vol.15

福島の今

日頃外国人をガイドしていると”FUKUSHIMA”について尋ねられることがあります。
しかし、日本人でも福島県の浜通り(沿岸部)に足を運ばれている方は少ないのが実情です。
また、現地に訪れたとしても人の捉え方は様々です。

この度、ガイドとして活躍される方々に福島に足を運んでいただき、現地の様子をレポートいただきました。
複数の方の目線を知ることで、多面的に「FUKUSHIMAの今」を感じていただければと思います。

シリーズ第15回目の更新です。
(シリーズはこちらから)

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筆者紹介:

竹内 玲子

わからない事はトコトン調べる好奇心の塊!ダークスーツで宗教、哲学、エネルギー会議からコスプレでサブカルチャーのアテンド、ディープでマニアックな街歩き、まで幅広く柔軟に、ご要望に合わせて日本の旅をサポートしております。

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「1000年に一度」と言われた、未曽有の震災から九年の月日が経とうとしている。東日本大震災にはもう一つ忘れてはいけない事実がある。それは世界で初めて自然災害が大きな原発事故を引き起こしたという事である。その結果「FUKUSHIMA」が東日本大震災の最も知られた被災地となり、世界中の人々の記憶に刻まれる事になった。

他の被災地が以前の姿を取り戻そうとしている中、福島が今どのようになっているか、実のところあまり考えてみた事がなかった。当該事業に福島の観光地も行程にあったが、沿岸地区の被災地は含まれていなかった。その時にも、そして今までにも何回か「FUKUSHIMA」や原発についての質問を何度か受けた事がある。その度に「福島は安全」「観光客も戻り活気を取り戻している」と繰り返していた。その時、観光地である会津地方や産業地区福島市の事しか念頭になく、私の中でも原発による沿岸の被災地は「忘れられた土地」になっていた。

今回、被災地を訪れる事が出来た事に非常に感謝している。まず、なぜ福島に原子力発電所が建設されたのか、それが地域にどのような恩恵を与えてきたのか、そして、震災の日なぜ事故は起こり、それがどのような結果をもたらし今に続いているのかを、客観的に学び、実際目にして様々な事を考える機会を得る事が出来た。

知識のない事、現実に目を向けない事は根拠のない妄想と恐れを生む。私も実際訪れるまでは、福島の被災地は時が止まりゴーストタウン化していると想像していた。実際見ていると、建設作業のトラックが常に行き交い、多くの作業員は放射線対策の装備なしで復興事業に従事していた。そして似つかわしくないほどの立派な建物施設が新築、再建されていた。しかし国道通行中車の中から見える建物の多くには人が住んでいないという。その原因が目で見えない放射能汚染である。そして、それが原因で長年住み慣れた土地から離れざるを得なかった人達のお話しを伺う機会を得る事が出来た。その話はとても重く、心にずしりと突き刺さった。目に前にある家にも戻れず、コミュニティは崩壊し、以前の生活にも戻れず、未来へと進むのも辛い思いを、それぞれが絶望や悲しみ、怒り、と共に語ってくれた。「希望」という言葉も耳にしたが、それは私には空虚に響いた。

未来に希望を誰でもが持てるわけではなく、前を向く事で更に心が折れる時がある。目に見えない放射能が福島の被災地の人々の人生を変えてしまったのは紛れもない事実である。自然災害と比べ、復興の見込みが更に難しい現実がそこにある。加え風評被害である。無責任な発言かつ無知な想像で「福島は汚染され、もう二度と元に戻らない」と発信された噂が流布し皆が恐れた。私もその一人だったのかもしれない。しかし、今回自分の目で、一部除染が難しい場所があるものの、一番汚染濃度が高かったと思われる地区の一つ浪江町の海岸部分の放射線量は東京とほぼ変わらない位下がっている、という現実を知る事ができた。実際訪れて、自分の目で計量しなくては信じる事は難しかったであろう。自分で実際経験する事はとても大切である。物理的には今立ち入り可能な場所が安全であるという事を確認する事が出来、この事は根拠のある事実として伝える事が出来る。

加えて少しの光も見る事が出来た。新たに福島に移住した人がいて、活気ある場所もあり、東京五輪に向けて、希望を抱いている人もいた。それを知る事ができたのも収穫だった。被災地を訪れる事は単なる物見遊山の観光ではない、しかし、実際自分の目で見る事により「根拠のない恐れ」からは解放される。そして自分の力で考え想像力を巡らせる事ができる。それがこの被災地を実際見る大きな意義である。

今後海外からのお客様のガイドやエスコートの仕事の中で、どのよう
に福島と向き合っていくか、考えてみた。 

被災地以外の福島に関しては、被災地と全く別の観光地としての魅力を積極的にPRしていく。しかし沿岸部の被災地は全く違うアプローチである、自ら訪問を勧め、今回体験した事を話す気持ちはない。しかし、海外の方から質問があった場合には、自分の実際見た事や状況を客観的に伝え、「原発賛成、反対」「政策の是非」という短絡的で狭量な判断を求めず、震災と事故から何を学び、どう未来に向けて進んでいけるか、それを各々が感じ取る場所としてして案内していきたい。興味を持たれた方には被災地訪問をご案内していくつもりである。

世界で初めて起こった事故を教訓として世界の未来も見据え、お客様に想像力を駆使し、たどり着いた考えが日本のみならず世界の未来を見据えたものとなるように期待している。私自身被災地を実際訪れてみた事はとても意義のある事であった、結論の出ない疑問が多々浮かんだが、今後も福島の被災地に関心を持ち学び続け、お客様に対し客観的なご案内ができるよう努めていきたい 、そう考えている。

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