この記事では、第一線でご活躍されている通訳ガイドの方をインタビューし、コロナ以前/コロナ禍での自己研鑽の方法や、今後の目指す姿などをお伺いします。
第1回目となる今回は、ガイド歴およそ36年、講師としてもご活躍されている松岡明子さんにお話をお伺いします。これまでのご経験、ガイドに必要なスキルや、その磨き方などをお伺いしました。
全7回のインタビューはコチラから。
ガイド紹介
松岡 明子
1986年に全国通訳案内士の資格を取得。ガイド歴およそ36年。現在は主にインセンティヴツアーと、ガイド組織の理事としてガイドスキルアップの研修の企画、運営、講師を務める。
ガイドになるきっかけ
ーーー ガイドになったきっかけは?
小学生の頃から外国語を話すことに憧れを持っていました。誰にでもあると思うのですが、私は、何か、みんなと違うという感覚があるじゃないですか。私の場合は背が高いということでした。
子どもの時は、それをコンプレックスに感じ、体格のよさそうな外国人と関わる仕事、例えば、スチュワーデスや通訳などに憧れるようになったのです。
津田塾大学系のビジネス英語専門学校を卒業後、大手商社や外資系会社で秘書職をやりながら、夜間、同時通訳の学校に通ったりしていました。そして、来日した多国籍学生グループの現場でボランティアスタッフをしていた時、プロの通訳ガイドさんと巡り合い、その方が私を旅行会社に紹介してくれたことがガイドになるきっかけとなりました。なにも知らない業界でしたが、旅行会社の担当者や、現場でグループを引率している外国人エスコート、ホテルのフロントやベルキャプテン、ロビーフロアーマネージャーの方など、多くの皆さんからさまざまな知識を学び、助けていただきながら少しずつ成長できたのだと思っています。
仕事の獲得方法
ーーー どのようにガイドの仕事を積んできたのですか?
就職という形ではなくフリーランスでした。ツアーがあるごとに契約していたので、複数の旅行会社から仕事の依頼を受け、いろいろなツアーの経験を積んできました。最初の仕事は、今でもよく覚えています。清水港に入港した観光船のお客様を石垣イチゴや東照宮へ案内したツアーでした。それからは、パッケージツアー、そしてインセンティヴツアーと経験を広げ、ガイド組織にて研修講師も務めるようになり、現場と両立して、知識と実践のバランスを保ちつつ今に至りました。
仲間同士で、研鑽を続けてきたことは有意義だったと思います。
ーーー 最近ではどのようなお仕事を?
実はコロナ前からガイド現場での就業は年間50日程度になっていました。世界各国の中央銀行の担当者が参加する金融セミナーや企業の国外役員グループなど、人気観光地に限らず、地方で知る人ぞ知るようなスポットや体験などのガイドを毎年依頼されてコーディネートさせていただく仕事が最近は主な仕事になっています。他、海外の旅行会社から直にガイドの依頼がくることもあります。クルーズツアーも、1日ツアーやオーバーランド(国内の宿泊を伴うツアー)も担当させていただいていました。
ーーー 1番多かった90年代は年間何日働いていましたか。
200日ぐらいですね。
ガイドに必要なスキル
ーーー どのようにガイドのスキルを磨きましたか?
自分の日本文化全般の知識が圧倒的に足りないと感じ、少しでも説得力のある話ができるように、そして、専門性を高めるために、基礎的な知識がまずは必至と考え、宗教、日本美術、建築などの専門書を読んだり、それらに関するテレビ講座なども視聴しました。外国語でガイドする際は、まずは基本知識を理解し、分かり易く外国語のガイドトークにするので、外国語で書かれた専門書にも目を通し、視点の違う考えや、使える表現を発見しては、現場でお客様相手に試しながら自分なりのガイディングができるようになっていったと思います。まずは、結論ありきの外国人とのコミュニケーションのルールを意識して組み立てるスキルが不可欠でしたが、何回も失敗しながら、分かり易い自分なりの話の進め方を少しずつ会得してきたと思います。当時読み漁った書籍は、いまでも、時々繰り返し読むようにしています。
ーーー 知識を得る以外に必要だと思った他のガイドのスキルは?
旅程管理のスキルですね。当初はツアーに同行していた添乗員が担っていた業務ですが、スマホなどのIT機器の誕生で、旅程管理も通訳案内士の仕事の重要な一部になりました。時間管理が重要です。目的地までの時間を踏まえて、お話する情報も伝え方を変えてゆかねばなりません。当初は、ガイディングに夢中になって、先方への電話連絡を忘れたり、いつの間にか目的地に着いてしまい、重要な情報を伝えそこなったり、失敗は多々ありました。また、現場でお世話になるドライバーさんやスタッフの方々への気配り力、多方面への注意力も重要なスキルだと思います。
ーーー 他に求められていたスキルは?
漠然としていますが、やはりお客様が求めている旅を実現するというスキルですね。
今は情報が簡単に手に入る時代ですので、こちらが全て情報を用意してガイドする時代は過ぎてしまいました。ですから、「今、お客様が求めているもの、ニーズは何か?」を察知して、それを実現させるスキルです。これは実際とても難しくて私も何回か失敗しました。
旅行会社と打ち合わせて、事前にお客様の情報を得て準備をし、下見にも出かけた末、実際にお会いすると全然ニーズが合っていなかったこともありました。そのときに慌てず、対応できるスキルです。これは、普段から、さまざまな場所や体験に自らが出向いて知見を磨いていないといけないと思います。
また、自分が感じた日本の素晴らしさや感動をお客様と共有するというガイドの醍醐味を味わうためには、客観的な情報だけでなく、時には、自己開示し、主観的な自らの感動を、大げさでない表現で伝えることもお客様との距離を縮めることができるコツです。これは自己開示力という一種のスキルです。
最後は、ユーモアセンスです。やはり一緒にいると楽しい!と思ってもらえるように常に頭を使う姿勢です。ユーモアは仕込んでおける技ですが、ウィットが言えるかどうかはとっさの機転がないと難しいです。しかし、これも、自己開示能力にも通じると思います。恥ずかしかったり、こんなこと言ってもいいのかなと迷っているとタイミングを逸します。失敗は成功の始まりです。勇気を出して、自己開示して、ウィット力を磨いていただきたいです。
ーーー ちなみにどのようにそういったユーモアセンスを?
落語の本を読んだり、バラエティショーのテレビの芸人さんの当意即妙な答えを聞いたりですかね。自分は一人っ子だったのですが、周りの人のことをいつも気にしていた大人しい子供だったと思います。「どうしてこの人は悲しいのかしら?どうして辛そうなのかしら? 楽しんでいるのかしら?」と他の人の表情をよく観察していました。
ーーー それは先程のお客様のニーズを汲み取って対応していくのと近いでしょうか。
そうですね。お客様は千差万別で、ニコニコとガイディングを聞いてくださる方もいらっしゃれば、いつも怒ったような表情の方もいらっしゃいます。そのようなお客様には、逆に、こちらから、楽しんでいますか?と軽く声をかけてきっかけをさぐるということはよくいたします。すると、表情がとたんに和んで、話が弾んだこともありました。一期一会ではありますが、人と人が出会うという稀有なひとときをできるだけ楽しんでゆきたいといつも思っています。
自己研鑽について
ーーー 90年代当時、実践してきた自己研鑽は?
語学力を磨くばかりでなく、ガイディングは、聞いてもらえるトークをいかに展開できるかが評価されます。ガイディングだけでなく、大きなグループに対しての日本文化エンタメの解説や司会などを任される機会が増えてきた時、日本語による話し方の育成講座をうけました。日本語での人前でのスピーチ力を高めるというものでしたが、大変参考になりました。「余分な事をいわない、文章をきちんと簡潔に、完結させる、だれにでも聞きやすい、癖のない話し方をする」など、この講座で学び、英語のガイディングに生かすことができたと思います。
今後の自分の展望
ーーー 今後ガイドとして目指したい姿は?
夢に描いていた通訳ガイドという仕事を永年務めることができた幸せに感謝し、お客様の笑顔を見続けてゆきたいと思います。そのためには、体力と知力と感性をまだまだ磨き、高めてゆきたいと思います。さまざまな専門家をお招きし、仲間とともに専門性を高める研修や、皆で刺激しあえる勉強会などの実施にも力を注ぎたいと思います。ガイドとゲストの心が通い合うガイド現場が日本の各地で生まれるとよいと思います。そしてゲストが日本に対して、良い印象と共感する気持ちを持ち帰っていただけたら、それこそがガイド冥利につきますね。大げさですが、ガイドも世界平和に貢献できると信じたいですね。
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