【通訳案内士のためのケーススタディ】プライベートツアーでのタイムマネジメント

通訳ガイドスキルアップ

街人道ケーススタディ、第二弾です。
前回の記事は、こちら

ケース#002:プライベートツアーでのタイムマネジメント

あなたは、新婚旅行で日本に初めてやってきた30代カップルJamesとMaryのガイドをしています。
8時間のツアーで、皇居・浅草・表参道・原宿・明治神宮・新宿を回るよう、エージェントから言われています。
確認したところ、エージェントはJamesとその行程で同意をしたようです。

当日約束の朝9:00にゲストと会った際に、JamesとMaryの2人に行程を再度確認したところ「Perfect」とのことでツアーをスタートしました。

お昼を浅草で食べ、表参道・原宿エリアに移動してきたところ、Maryは買い物に興味があるようで、一つ一つのお店に入っていきます。

時計を見ると予定の時間をもう大幅に過ぎています。Jamesは、一緒に楽しむでも、不快そうでもなく、淡々としています。

さて、あなたならどうしますか?

プライベートツアーでは、グループツアーと違い、よりカスタマイズしたツアーを実施することができます。

しかしながら、言われたままにカスタマイズしていると…

さて、このような場合どうするのがいいでしょう。

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(対応例と解説)ケース#002:プライベートツアーでのタイムマネジメント

(対応例①)

新宿に1時間半から2時間を見込むとそろそろ動かなきゃいけないけど、ゲストはここでの買い物に興味があるようだ。
朝に行程は伝えたし、Maryも大体それくらいの時間がかかることはわかっているはず。その上で、ここで時間を使いたいと思ってるんだろう。
ゲストの要望に応えて楽しませるのが、プライベートツアーだと研修でも聞いたし、と思い、
Maryに「もう少しみたい?どんなものに興味があるの?何かあったら店員さんに聞くから言ってね!」とフォローした。
Maryは「気になるのでもうちょっと見ていきたいわ。ありがとう!助かるわ」と喜んでいるようだった。
またJamesに「女性は買い物好きよね!」というと、「ホント困ったもんだぜ」と笑っていた。

(対応例②)

新宿に1時間半、移動に30分、明治神宮で最低1時間はかかる。
そうなるとそろそろ移動しなくてはいけない。
でも、Maryは買い物に夢中だし、楽しそうにしているし、困ったな。どうしよう。
そう考え、Maryの買い物を眺めているJamesに相談しました。
「朝お伝えしたように、この後、明治神宮と新宿に行く予定です。
Quickに見るなら2時間ちょっと、ゆっくり見るなら3時間は見る必要があります。
買物楽しんでいるようだし、どちらかを削るというのもオプションとしてあるけど、どう思う?
おススメとしては、買い物は新宿でも出来るから、明治神宮行って、新宿に移動するのがいいかなと思うけど。」
JamesがMaryに話しかけ相談した結果、明治神宮を削ることになりました。

(対応例③)

新宿・明治神宮を回ることを考えたら3時間は見ておきたい。もう時間的には押している状況だ。
エージェントからは、皇居・浅草・表参道・原宿・明治神宮・新宿を回るよう言われているし、
朝にJames、Maryともその旅程で合意した。
エージェントからあとで何か言われるのも嫌だし、ゲストとの約束も守らなくてはいけない。
うん、ここではもうこれ以上時間使えないな。買物くらいあとで戻ってきて自分たちでも出来るだろうし。
「ほらMary、ごめんなさい。もう行かないと明治神宮、新宿に間に合わないわ。行きましょう!」
Maryも、後ろ髪をひかれた印象ながら「わかったわ」と言って、明治神宮に向かうことになりました。

(解説)
さて、あなたなら、どのガイドについていきたいと感じましたか?

ここでのポイントは3点あります。

  1. タイムマネジメントは通訳案内士の仕事
  2. ゲストは日本を知らない(かもしれない)
  3. 出来ないと決めつけず選択肢を与える

1.タイムマネジメントは通訳案内士の仕事

プライベートツアーは、確かに柔軟性があります。
ただ、柔軟であることと時間の制約がないことは違います。

時間の制約がある以上は、タイムマネジメントは必須です。
そして、時間の管理は、ガイドの大切な仕事なので、そこは責任感を持ちましょう。

ゲストは、ガイドがいい塩梅に時間を見てくれていると思っています。
対応例⓵のようにゲストの要望に合わせていて時間が足りなくなっては後からクレームにつながります。

(「ゲストの希望聞いてたら押したから1時間サービスしてあげました」というガイドさんもいますが、
ゲストも1時間余分に時間があったからよかったものの、その後の予定が入ってたらおしまいです。)

2.ゲストは日本を知らない(かもしれない)

そしてもう一つ大事なことは、「ゲストは日本を知らない(かもしれない)」ということです。

当たり前だと思うかもしれませんが、通訳案内士としてガイドをやって慣れてくると、日本のことを良く知っているゲストに多数会います。
そうしたゲストになれると、ゲストは結構日本のことを知っているという錯覚に陥ることがあります。

また、「いや、一つの場所に1時間くらいかかるのは常識だ」等といった変な固定観念を自身で持ってしまっている方もいます。

対応例⓵のように「Maryも大体それくらいの時間かかることはわかっているはず」と決めつけて行動すると火傷します。

あくまでゲストと接する際は、知らない可能性がある、という前提に立ってコミュニケーションする必要があります。

3.出来ないと決めつけず選択肢を与える

1.2.の前提を踏まえたうえで、サービス業で大事なのは、
「○○をしたい」というゲストに対して「NOと言わない」ことです。

対応例⓵のようにゲストニーズに合わせすぎてもダメですが、
対応例③のようにゲストの要望にNOを出すのもダメです。

難しいところですよね。でも、難しいからこそ、プロの通訳案内士の腕の見せ所です。

買物に興味があるゲストに、時間がないから買物はNO、というのではなく、
「こういう条件なら、買い物できるし、どうする?」と提案してあげることです。

この場合に、対応例②のように場所を削るっていう提案もありますし、
時間があれば「○○円かかるけどもう1時間延長すればすべて回れるけどどうする?」というのも一つです。

どのような提案が出来るか、どううまく伝えられるか、が通訳案内士のレベルの違いがみられるところです。

大きく3つのポイントについて解説してきましたが、
実際には、キーマンが誰なのかを抑えておくことも大事な要素です。

仲良い2人組ならまだしも、
仲良し8人組くらいになってくるとみんな言うこともばらばらで、全員の言うことを聞くことはできなくなります。
その場合には、リーダー役、声の大きい人、不満を口に出しやすい人等がグループにいるので、
そうした人を認識したうえでコミュニケーションをとることが求められ、難易度があがります。

なお、対応例⓵、対応例③では、実際にゲストからツアー後にメールを頂いたこともあります。

「新宿まで行けると思ってたのに、最後に突然、時間がないからと行けなくなった。話が違う」
「後半になって、時間が無くなったのか、ガイドが物凄い急かしてきて、全く楽しめなかった」

通訳ガイドとしてもきっと言い分があったことでしょう。
でも、ゲストがそう感じたのは事実です。自分がゲストでもそう感じるのではないでしょうか。

言って来てくれるならまだわかりますが、胸に秘めたままのケースがほとんどです。

ゲストはあの時どういう気持ちだったか、ゲストに他にできたことはなかったか、
ツアー後に振り返ってみてはいかがでしょうか。

きっと次のツアーに活きてくるはずです。

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