日本の食の魅力「発酵食品」を伝えよう

通訳ガイドブログ

近年、海外で味噌や納豆などの発酵食品がスーパーフードとして注目されています。

日本でもここ十年くらい前から、塩麴や納豆、ヨーグルト、甘酒…など、たびたび発酵食品がブームになっていますよね。

昔からある発酵食品が、今あらためて世界中で脚光を浴びている大きな理由の一つは、発酵食品を生み出す微生物たちが「腸活」に素晴らしい力を発揮してくれるからです。腸内環境を整えて健康に保つことは、生活習慣病やがんの予防、免疫力向上、便秘改善、ダイエット、アンチエイジングなど、身体にうれしい効果がたくさんあります。また腸はストレスと密接に関係しています。

そして、発酵食品の魅力は健康のためだけではありません。醤油や味噌、みりん、鰹節など発酵食品は「旨味」として伝統的な和食には不可欠です。和食がユネスコ無形文化遺産に登録されて以降、和食が世界的なブームになっていることはもちろん、世界中で「Umami」を理解する人が急増し、今では海外のシェフたちが、味噌や醤油など和食の調味料を料理に使うことも当たり前になっています。また最近では海外で、寿司やラーメンなど人気の和食だけではなく、味噌汁や漬け物など日本の伝統的な料理や家庭料理に興味をもつ人も増えているようです。

その一方で、食の多様化により、わたしたち日本人があまり和食を食べなくなってきています。和食は発酵食品の宝庫です。食べないともったいない!

今回はあらためて日本の発酵食品の魅力をゲストに伝えるためにも、まとめてみます。

日本人であることを誇りに思い、再び外国人観光客が日本に戻ってきたとき、自信をもって愛すべき日本を案内したいものです!

【ガイドライター】
齋藤 一美(さいとう かずみ)
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2016年に英語全国通訳案内士資格取得。通訳ガイド派遣会社でのコーディネーター職を経てフリーランスの通訳ガイドに。コロナ禍の現在は前職の介護福祉士として高齢者ケアの仕事に従事中。グーグルマップを見ながら妄想旅のプランをあれこれ練ってるときが至福の時間。

日本は発酵大国

世界中にはさまざまな発酵食品がありますが、発酵食品の種類は日本がダントツ!
漬け物だけでも3,000種類以上もある、発酵大国です。

日本が発酵大国である大きな理由は、まず風土に恵まれていることです。日本の温暖湿潤な気候は発酵に最適です。そして海に囲まれているため魚や発酵に欠かせない塩が豊富にとれます。また、島国で食材が限られているため昔から保存や備蓄の知恵が備わってきていることも要因にあるようです。

そして、麹菌が日本の発酵文化を大きく支えています。

日本にしかない麹菌

発酵食品を生み出す主な微生物には麹菌のほかにも、酵母や乳酸菌、納豆菌、酢酸菌などがありますが麹菌はカビの一種で、日本にしか存在しません。2006年には「国菌」に認定されています。

味噌に醤油、みりん、米酢、酒、鰹節…和食の味を決める食材はすべて麹菌の働きによる発酵食品です。「和食=麹菌」といっても過言ではないですね。

麹菌は糖分をつくる力が強く酸をあまりつくらない性質があり、そのことで旨みやまろやかな甘味など和食には欠かせない味わいをつくりだしてくれます。しかし、その分雑菌が混入しやすく、とても繊細なので丁寧な作業が求められます。日本が温暖湿潤な気候で麹菌にとって恵まれた風土だったというだけではなく、日本人の手間暇かけることを惜しまない、まじめで几帳面な気質や、より良い品質のものをつくるために技を磨き続ける真摯な姿勢が麹菌を守り続け、そして発展させ、豊かな発酵文化をつくり上げてきたのでしょう。

日本の発酵食品の歴史

日本で発酵食品がつくられた最古の記録は、奈良時代の木簡に残る「瓜の塩漬け」とのことですが、醤油の起源となった「醤(ひしお)」や、穀物や木の実などを口に入れて嚙んだものを発酵させた「口噛み酒」、塩漬けにした魚を発酵させた「なれずし」といった発酵食品は縄文時代後期〜弥生時代の頃には既につくられていたそうです。そして奈良時代には麹菌を用いた発酵技術が広まり、平安時代の頃には酒や酢、醤、味噌などがすでに街中で販売されていたとのこと。また酢漬けや粕漬けなども段々とつくられ始めたようです。

鎌倉時代には、粒状からペースト状の味噌がつくられるようになったことで食べ方に劇的な変化が起こり、味噌汁が登場します。「一汁一菜」が確立したのはこの頃とのことです。

そして、安土桃山時代から江戸時代の頃にはみりんや鰹節、ぬか漬けがつくられ始め、江戸時代には野田や銚子を中心に関東で、江戸っ子好みの濃口醬油が大量に製造されるようになり、一般庶民まで広く普及されるようになりました。また江戸中で、「江戸みそ」と呼ばれる、米麹をたっぷり使ったとても贅沢な味噌がつくられており、白みそ、仙台みそ、田舎みそ(麦みそ)、八丁味噌とともに「5大みそ」と位置づけられていたそうです。江戸みそは徐々に衰退し一時は消滅し、幻の味噌となりましたが、近年になって復刻され、「江戸甘味噌」として、東京都の地域特産品の認定食品になっています。

また、納豆の発祥については諸説ありますが一番古いものだと弥生時代です。納豆といえば水戸納豆が有名ですが、その歴史は「平安時代の武将・源義家が奥州へ向かう途中、水戸の長者の屋敷に泊まった際に馬の飼料である煮豆の残りから納豆ができた」という説から来るようです。また、室町時代から江戸時代後期の頃までは主に納豆汁として食べられたとのこと。現在のようにごはんにかけて食べるようになったのは江戸時代後期の頃からとのことです。

日本の発酵食品の歴史をしらべ始めると、あらためて和食の歴史そのものだと感じます。太古の日本人は発酵を神が宿って起きる現象と思っていたようです。そんな神聖な現象を知恵と技術で磨き続け、後世へと繋ぎながら、世界に誇る豊かな食文化へと築き上げた先人たちは本当にすごいです。

地域による発酵食品の特徴

北は北海道から南は沖縄まで南北に長い日本列島、気候風土や恵まれる食材が異なるため必然的に食文化も嗜好も多種多様です。日本全国でその土地ならではの発酵食品が生まれ受け継がれています。

醤油や味噌をとっても地域性が色濃く出ます。醤油は濃口醤油が全国的に広くつかわれていますが、九州地方では甘口醤油、関西では淡口醤油、中京ではたまり醤油や白醤油が好まれます。また北海道や東北地方では出し入り醤油を普通の醤油代わりに使用する地域もあるそうです。

味噌も全国の気候、風土、原料や配合などの違いによりさまざまな味噌がつくられています。発酵の原料は全国的に米麹が主流ですが、九州では麦麹、中京では豆麹がつかわれています。また、北海道や東北地方など寒い地域では辛口の赤味噌、関西などでは甘口の白味噌が好まれます。赤味噌と白味噌の大きな違いは熟成期間によるものだそうです。赤味噌の方が熟成期間が長く塩分濃度も高めです。また白味噌が甘いのは米麹を多めに使用しているからだそうです。そして全国的に圧倒的につかわれているのが信州みそで全国シェアはなんと約50%とのこと。産地の長野県内にはみそ蔵が100軒以上も点在します。

気候や風土の影響による保存方法の違いや人間の身体の本能などにより、一般的に寒い地域ではしょっぱいものが、暖かい地域は甘いものが好まれますが、九州で甘口の味付けが好まれる理由は、歴史的な観点で砂糖の伝来にも由来するそうです。鎖国時代、長崎の出島から砂糖が入ってきて比較的容易に入手できたとのこと。とはいえ当時、砂糖はとても高級品だったので料理に大量に使えるものではありませんでした。だからこそ客人への最高のおもてなし料理として甘い料理が振舞われていたとのことです。また、九州のお酒といえば焼酎ですが、焼酎は蒸留酒で糖分を含まないため、焼酎と合わせて美味しいのは甘い味付けの料理ということも関係しているようです。一方で、日本酒は糖分が含まれるので、しょっぱい料理と相性がよいということになるんですね。

ところで、愛知や三重、岐阜の中京地域の食文化はとても独特ですよね。八丁味噌を代表とする豆味噌やたまり醤油、関東と関西の間なのにどちらにも寄ってない感じです。

たまり醤油は豆味噌の製造過程で生まれます。平安時代の頃には味噌づくりに米麹が広く用いられるようになりましたが、この地域の気候は、夏季は高温多湿で、発酵が進みすぎてしまうため米麹の味噌づくりに適さなかったようです。そのため、湿潤な気候でかつ酷暑厳冬に耐えられる豆味噌が造り続けられたとのこと。その後、徳川家康の時代に兵糧として活用され発展します。江戸時代に入って濃口醤油が全国に出回るようになりますが、知多半島などのたまり醤油の業者たちが、濃口醤油の流通を厳重に取り締まり、進出をしにくくしたことで、たまり醤油は発展し続けたとのことです。

気候や風土、歴史…何か一つでも違ったら、味噌煮込みうどんや味噌田楽、伊勢うどんなど、この地域ならではの郷土料理も生まれてなかったのかも知れませんね。

ちなみに、たまり醤油はグルテンフリーなので小麦アレルギーの人でも安心してつかえます。

全国の郷土色が濃い発酵食品

全国的に知名度が高いものからその土地の人しか知らないような珍しいものまで、日本には本当にさまざまな発酵食品があります。すべてはとても挙げられませんが、いくつかをご紹介します。みなさん、どれだけご存じでしょうか…?

めふん

北海道に古くから伝わる珍味。秋鮭の血合い(腎臓)を塩漬けし、じっくり熟成させたもの。

ごど

青森県十和田市の郷土食。納豆に麹をまぜて乳酸発酵させたもの。発酵学的には相性が悪いとされている納豆と麹を合わせ更に乳酸発酵させるという珍しさと癖になる美味しさから、発酵マニアの人たちから注目されている発酵食品。

あわびの精

岩手県盛岡市の「浅沼醤油店」と、大船渡の「野村海産」が共同開発した注目の魚醤。漁獲量日本一を誇る三陸海岸のあわびの肝を熟成発酵させたもので、少量でもあわびの風味が堪能でき、深いコクが特徴。

くさや

新島が発祥の地とされ、伊豆諸島でつくられている特産品。くさや液と呼ばれる独特のにおいがする発酵液に新鮮な魚を漬けこみ、その後天日干しにしてつくられる。くさや液は古いものほど旨味が出るとされ代々受け継がれている。中には200〜300年も続くものもある。

久寿餅

亀戸天神社や池上本門寺、川崎大師の門前町の名物で、江戸時代後期につくられた菓子。小麦粉から精製したデンプンを乳酸菌で発酵させたもので独特の食感と風味がある。葛粉を利用した葛餅とは別物だが、同様にきな粉や黒蜜をかけて食べる。和菓子で唯一の発酵食品とも言われている。

かんずり

新潟県の伝統調味料。塩漬けにした唐辛子を雪の上にさらしてあくを抜き、柚子や糀などと混ぜて、じっくり3年発酵させてつくられる。

いしり

能登半島先端部、奥能登地方に古くから伝わる、イカワタを塩にまぶし長期熟成させた魚醤。秋田の「しょっつる」、香川の「いかなご醤油」と並ぶ日本三大魚醤のうちの1つ。

ふぐの卵巣の糠漬け

石川県の郷土料理。フグの中でも猛毒がある最も危険な部位である卵巣を2年以上糠漬けすることで無毒化させた珍味。出来上がった糠漬けは検査で毒素が消失したことを確認後に出荷される。海外でも注目されている一品。

ふなずし

滋賀県に伝わる郷土料理で、現存する最古の寿司と言われている。琵琶湖産のニゴロブナを塩漬けしたのち、炊いたご飯を重ねて漬け自然発酵させたもの。独特の香りが特徴。ふなずしのごはんを取り除き更に粕漬けにしたものは甘露漬といい、香りは和らぐ。

すぐき漬

冬に収穫されるかぶらの一種「すぐき」と塩だけで漬け込み、乳酸発酵によって出来る酸味が特徴の漬物。千枚漬、しば漬と並び、「京都三大漬物」と呼ばれている。

碁石茶

江戸時代のころから高知県の一部地域のみで生産されている希少性の高いお茶。茶葉にカビ付けして乳酸発酵させる。重石をのせて漬け込まれるため茶葉が固まり、むしろに並べて天日干ししている様子が碁石のように見えたことからこの名がついたとされる。苦みがなくすっきりした酸味が特徴。

センダンゴ

長崎県対馬に伝わる保存食。サツマイモの「セン」という、でん粉を取り出し、よくこねて「鼻高団子」と呼ばれる形にまるめ、天日乾燥させたもの。

ねむらせ豆腐

宮崎県椎葉村の伝統食。生のかた豆腐を昆布で巻き、麦味噌に1年間漬け込み発酵させたもの。チーズのような濃厚な味わい。

ミキ

奄美大島に伝わる高温多湿の気候風土を生かし、米とサツマイモと砂糖を発酵してつくられる乳酸菌発酵飲料。奄美の伝統行事で神様へ奉納されていたことから「お神酒」→「ミキ」という名前がつけられたといわれている。ミキを専門につくる「ミキ屋」が島内に数件ありお土産としても人気。栄養価が高く夏バテ予防にもよい。

豆腐よう

沖縄の伝統料理。琉球王朝時代、明から伝わった「腐乳」が元といわれている。豆腐を泡盛や紅麹、米麹などを使った漬け汁に長期間漬け込んで発酵、熟成させたもので「東洋のチーズ」と呼ばれるほど濃厚で、深い味わいが特徴。

木桶について

木桶は、地域や蔵によって住み着く微生物が異なり、独特の生態系をつくっていて、百年を超える歴史の積み重ねがオリジナルな生態系をつくりだし、その蔵元にしか出せない風味や味わいになっていくそうです。

しかし、江戸時代までは、醤油、味噌、みりん、酢、酒などは木桶でつくられていましたが、費用対効果が合わないという理由で減少の一途をたどり絶滅の危機に瀕しているそうです。

木桶の絶滅に危機感を感じた小豆島の「ヤマロク醤油」の五代目である山本さんの呼びかけから、2012年、全国の木桶を使う蔵元たちが「木桶職人復活プロジェクト」を立ち上げ、木桶を守り伝承する活動をしています。

参考資料:https://www.s-shoyu.com/kioke

見学ができる醤油蔵・味噌蔵

都内から比較的アクセスしやすい、伝統的な木桶をつかっている蔵のご紹介です。

弓削田醤油(埼玉県日高市)

金笛醤油(埼玉県比企郡川島町)

松本醤油店(埼玉県川越市)

石井味噌(長野県松本市)

発酵パーク(長野県茅野市)

まるや八丁味噌(愛知県岡崎市)

発酵食品おすすめショップ・レストラン

発酵デパートメント・・・下北沢駅から徒歩3〜4分、BONUS TRUCKという商業施設内にある、全国各地のユニークな発酵食品がそろうお店。

発酵の里こうざき・・・千葉県香取郡神崎町にある、発酵食品を専門に扱う道の駅。

職人醤油 松屋銀座店・・・日本各地の90種類以上の醤油を100mlの小さいサイズで統一して販売しているお店。

糀屋三郎右衛門・・・東京都練馬区にある、都内唯一の「昔みそ」の味噌蔵。袋詰めの後に敢えて密封していないので、発酵しつづけている「生きている味噌」に出会えるお店。

Hacco’s Table・・・浅草駅から徒歩7分ほどの場所にある、発酵食専門のレストラン。華やかでカジュアルな割烹として提供されている。

醸カフェ・・・西荻窪駅から徒歩10分ほどの場所にある発酵食専門のカフェ。味噌仕込みや天然酵母パンなどのワークショップも開催される。

発酵デリカテッセンカフェテリアKouji&ko・・・新宿高島屋の8Fにある、スタイリッシュな発酵料理を店内で食べられるだけでなく、惣菜やスイーツをテイクアウトできるお店。


以上、日本の発酵食品についてのあれこれは如何だったでしょうか?

おいしく発酵食を楽しみながら免疫アップして、暑い夏とコロナ禍を元気に乗り切りましょう!

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