全国通訳案内士インタビュー Vol.6 中山慶さん

インタビュー

この記事では、第一線でご活躍されている通訳ガイドの方をインタビューし、コロナ以前/コロナ禍での自己研鑽の方法や、今後の目指す姿などをお伺いします。

第6回目となる今回は、ガイドに通訳、経営と多方面にご活躍されているエクセレントガイド・中山慶さんにお話をお伺いします。自己研鑽の方法や対富裕層ガイドのご経験、今後目指したい姿についてお伺いしました。

全7回のインタビューはコチラから。

ガイド紹介

中山慶
英語&中国語ガイド。2014年に全国通訳案内士試験に合格。京北(京都市北部の山間地域)を拠点に、通訳業と並行しながらFITを中心にゲストをご案内。2019年に株式会社ROOTSを創業し、国内外を対象としたスタディツアーなどを企画・運営。

ガイドになるきっかけ

ーー ガイドになったきっかけについて、聞かせてください

2013年に京北へと移住して、通訳案内士資格は2014年に取得しました。
移住後すぐにインバウンド事業を始めたものの、当時は有償ガイドにあたり資格が必須だったので。業界の入り口としては民泊です。

当初は宿の運営や送客のみ、と想定していました。
そんな中、ゲストのリクエストに答える形で案内も始めたのがきっかけです。

ただ、移住前の東京ではカウチサーフィンのホストを営んでおり、さまざまな旅人を、当時住んでいた古民家のシェアハウスに泊めて交流していたため、既に似たような経験があったのも大きいかもしれません。

古民家で一緒に料理を食べて言語を教えあったり、週末は都内をご案内したり。ライフワーク的に楽しんでいましたね。

ーー 仕事を得ていたのは、主に民泊のゲストから

一つはやはり、Airbnbでご宿泊されたゲストをご案内していました。

後はちょうどその頃、インバウンド業界が盛り上がってきていたんですね。
友人が海外系の旅行会社で働いていて、そのご縁からゲストをご紹介してもらったり。
それをきっかけとして京都市内だったり、奈良や大阪など、近郊まで対応するようになりました。自分たちの民泊のゲストと旅行会社経由のゲスト、並行して請けていましたね。

ーー その頃と比べてみて、変化したと感じる点はありますか

転機となったのは、2019年の株式会社ROOTS創業です。

経営が加わったことで、個別のツアーに代わり、教育プログラムを企画し実施する機会が増えました。収益の面からも、単発より継続を軸にした事業運営に徐々にシフトしましたね。

また、ツーリズムを通して生まれた関係性から、お客様が香港やフランスの教育・交流プログラムのコーディネーターとして就任してくれることもありました。

教育プログラムを作っているくらいから、講師やガイドに通訳など、様々な方々とともに運営していく形が定着してきたかなと。

コロナ禍の影響によりガイドのFITはほぼ消滅しましたが、教育プログラムに関してはオンラインで対応しています。最近のものでは、林業や漁業の問題を考えるプログラムを香港理工大と行ったり、フランスと「海の京都」こと丹後を繋ぎ、お互いの産品を送り合って紹介し合うフードチャット企画などです。

形態としては通訳兼、モデレーターを兼ねながら企画も行うイメージです。

ーー 京北とそれ以外の地域だと、ご案内されていた客層も異なったのでしょうか

はい、違いましたね。

京北はやはりアドベンチャー寄りで、交流を目的としていたり、地域の文化にご興味をお持ちの方が多かったのかなと。入りが民泊だったりAirbnb経由のゲストですね。

一方市内の場合は、専属ガイドをつけるなど割合として富裕層が多かった記憶があります。

富裕層を対応した事例

ーー 富裕層のゲストからは、どのような形で依頼を受けられていましたか

直接お問い合わせをいただくことは少ないですね。

時々入ることはありましたが、殆どはエージェントを通してのご依頼でした。どうしても扱いが難しくなるので。経由としては海外エージェントだったり、国内だとDestination Asia Japanなどでしょうか。

ーー どういったツアーを

様々な経験をしましたが、プライベートジェットのツアーが印象に残っていますね。
5〜60人ほどいらっしゃって。通訳案内士も15名ほど参加していたかと。
大型バスの使用が不可だったため、アルファードを15台ほど並べて関空で待機していました。
通訳案内士も人数が集まっていた分、案内の仕方もそれぞれ分かれていたようです。

午前と午後でツアーが変わるスケジュールだったので、クレームが発生したゲストを引き継いで対応する場面もありました。難しいゲストの対応を任されたのもあって、おそらくレートを上げてもらっていたかと思います。

ーー エージェントの繋がりはお知り合いから

Destination Asia Japanの場合、元々働いていた方から紹介されたのだと思います。
一緒にお仕事をした仲だったり、ガイド同士の紹介は一般的なのではないでしょうか。
エージェント側から尋ねられる機会も多々ありました。

多言語ガイドについて

ーー 英語と中国語に加えて、その他の言語も話されると伺いました

基本的に、ガイドの際に用いるのは英語です。
言うまでもなく、圧倒的な需要の高さが理由としてあります。

通訳の話になりますが、最近の出来事として、在日のフランスやドイツの文化機関の仕事をお請けしたことがあります。フランス語やドイツ語で進行されるかと思いきや、アメリカをはじめとした多国籍の方々が参加されるとの理由で、英語で行われることが一般的になっています。

また、中国語ガイドにしては、やはり中国人が圧倒的に強いです。
ただ中華系のゲストを案内する際には、ほぼ中国語で話していましたね。

日本人の中国語話者が少ないのもあって、驚きと拍手で好意的に受け止めてもらえました。

正確を期すために要所は英語でも伝えていますが、挨拶などはゲストの国の言葉でお話しています。自分も学びたいので、お客さんの言語も教えてくれると嬉しい、との姿勢も心がけていますね。

ガイドのやりがい

ーー ガイドを続けていく中で、やりがいを感じる場面はありますか

まず一つは、ゲストの母国について最新情報を学べることでしょうか。
当然ながらガイドをするのはこちらですが、色々と教えてもらう機会も多いですね。
歴史やニュースをある程度予習しておき、それを投げかけることで深い会話へと繋げています。文化を比較する視点を持ちつつ、それを検証する工程に面白さを感じます。

後は通訳業と比べたとき、毛色が異なる部分もあります。
実入りとしては通訳の方が多いものの、ミスが許されない職場環境だったり、プレッシャーも正直かなり大変だと感じています。数時間の同時通訳の本番のために、3日間は集中して準備に向き合う必要があり、かかる負荷としても圧倒的にシビアだと考えています。毎日行うのは体力的にも精神的にも難しい職種ですね。

一方ガイドについては、比較的に準備が少なくて済む印象があります。もちろんある程度の習熟は必要で、幅広く対応可能な知識を身につけている前提ですが。

普段読んでいる本だったり、それらをそのまま活かせる点に魅力を感じています。

ーー 通訳の現場とは異なると

現場で友人になるような、そういった場面は通訳にはあまりないですね。
ゲストにとってほぼプライベートな時間を共にして、一緒に楽しむ時間を共有できる職業がガイドなのかなと。

元々コミュニケーションが好きな面もありますが、案内中に生まれる余白的な時間だったり、ゲストによって会話が全く異なり、飽きることがありません。

天職に近いのかな、と感じることも多いです。

ガイドに求められるスキル

ーー ガイドには何が求められると思いますか

よく挙げられるのは言語や知識でしょうか。

ただ私としてはより深い部分、異文化コミュニケーションの能力かと思っています。
流暢な英語が必ずしも正解ではなく、状況に沿って対応する力が重要ではないかと。

例えばアジアのゲストで英語に不慣れであれば、形式張った表現が最適とはいえません。
しかし英語圏のインテリ層が相手ならば、あえて高度な語彙を用いるなど。
用意された原稿を読むのではなく、相手の背景を理解した上で、必要に応じて伝え方を変えられる即応性ですね。

ーー 異文化コミュニケーション能力について、どのように磨くべきでしょうか

ゲストハウスのような環境で、場数を踏むことかなと思います。
異なる文化圏の方々から、矢継ぎ早に質問をされる経験ですね。
学校ではないので興味を引けなければ離れていくし、そういった状況の中でどのように会話をするか、考えることが練習に繋がるのではないかと。

自己研鑽の方法

ーー 自己研鑽としてされていることはありますか

英語力の管理でしょうか。日本生まれの日本育ちなのでより意識して取り組んでいます。
寝る前に洋書を読んで、たまにボイスレコーディングをして。二倍速で聴きながら眠りについたりしています。
お風呂に浸かっているときなど、一人で会話のロールプレイを行ったりしていますね。
なるべくその言語から離れないようにしています。

後は基本的に、普段の暮らしの中でも三言語で考えるようにしています。
日本語で伝えられても英語や中国語で表現できないような、そういった単語があれば常にメモとして残すよう心がけています。習慣的に行っていますが、終わりはないですね。

今後目指したい姿

ROOTSのビジョンとしてお話すると、インバウンドとアウトバウンドの垣根がなくなるのでは、と感じています。現在は香港やフランスを対象として、地域で育まれてきた知恵をアドベンチャーツーリズムを通して伝えています。ただそれも、英語ベースで行っているわけです。

そう考えると、これがミャンマーの山奥だったり、ペルーの山村だろうと同じような深みでプラグラムを企画・実施することは可能ではないかなと。そういった企画も含めて、取り組んでいきたいと考えています。

ガイドのスキルやツアーリーディングのスキルは、日本国内に留まる必要はないですね。
英語でプログラムを作れることは、世界の各地域に知識や人の交流を創出できると思っています。

個人的には異文化コミュニケーションの現場が好きなので、その場に居続けたいなと思います。立場や年齢もあって、講師的な役割へとシフトしがちですしね。

自分自身の家を作り、ゲストルームもあるような空間で国内外問わず人が交流する場を作れたらなと。ある種の原点であるカウチサーフィンや、Airbnbのような形でしょうか。

日常生活でも、人々の交流が生まれるような場に身を置きたいと思っています。

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