私が見た福島沿岸部の今Vol.13

福島の今

日頃外国人をガイドしていると”FUKUSHIMA”について尋ねられることがあります。
しかし、日本人でも福島県の浜通り(沿岸部)に足を運ばれている方は少ないのが実情です。
また、現地に訪れたとしても人の捉え方は様々です。

この度、ガイドとして活躍される方々に福島に足を運んでいただき、現地の様子をレポートいただきました。
複数の方の目線を知ることで、多面的に「FUKUSHIMAの今」を感じていただければと思います。

シリーズ第13回目の更新です。
(シリーズはこちらから)

=====

筆者紹介:

松田佐智子

2018年2月全国通約案内士試験に合格し、2019年は主に築地場外に
て、海外からの旅行者にガイドをしている。

=====

私は、新潟県出身。福島は小さい頃から訪れていた隣の県だ。
小学校の課外活動の一環で会津若松に行ったり、家族で温泉旅行に
行ったりした。猪苗代湖、磐梯山、五色沼…。自然あふれる風景と
楽しかった思い出しか頭に浮かばない。
新潟も福島も歴史的背景が似ている。昔から、農業、特に稲作が盛
んで冬は寒く、雪も沢山降る地帯。冬の産業などが少ない為に農家
の人は出稼ぎに東京などにいった。貧しい地域の活性化を狙って原
発に土地を誘致しているのだ。しかし、両県とも大きな地震を経験
し、地震による原発での事故も経験している。福島の今回の震災は
、原発が近くにある地域では他人ごとでは済まされない話なのだと
思う。このツアーは決して楽しいだけのツアーではない。しかし、
世界中で地球温暖化に伴う異常気象が起こり、多くの人がそれに伴
う災害に遭っている。これからの私たちのライフスタイルをどう変
えていくべきなのか考えるいいチャンスなのだと思うのだ。

今回で、ノットワールドのツアーで福島沿岸部にいくのは4回目だ
が、ツアーではガイドとして参加しており、細部まで理解できない
事が多々あった。今回の研修ではゲスト目線で福島沿岸部を廻れて
いろいろな訪問先で現地の方にお話しをゆっくり聞け、福島に対す
る理解が深まったと思う。
二日間で行った場所は、富岡町の廃炉資料館、中間貯蔵情報センタ
ー、富岡町を語り部の方と一緒に廻り、楢葉町、天神岬、浪江町の
請戸漁港、浪江小学校、まちなみマルシェ、春卯野地区・希望の牧
場、花農家である。

廃炉資料館や中間貯蔵情報センターなどは、客観的な目線から震災
当日、福島原発ではなにが起こったのか、現在の除染の作業状況な
どを説明していた。東京電力が人々に理解してもらおうと努力して
いるのだと感じた。

天神岬などは、岬自体が大きな公園となっていて、小高い所から広
野の火力発電所も見えた。ここは、日本の火力発電所の技術を説明
できるいい場所だと思った。日本の火力発電所は二酸化炭素の排出
を極力下げようと最先端の技術を用いて努力しているのである。多
分、普通の人が思う以上に二酸化炭素の排出量は少ないはずだ。

浪江町の請戸漁港や浪江小学校、浪江駅周辺などは津波、放射能汚
染による影響を強く感じる場所である。請戸周辺には現在、民家な
どはなく海岸線沿いに防風林が作られ浪江小学校が震災当時のまま
の姿を残している。

楢葉町では、ならはCANVasを見学した。木造二階建ての建物で大
きなガラス窓と暖かい屋内、住民の方の集う場所として存在してい
る。楢葉町は浪江町や富岡町よりも原発から放れていて、放射能汚
染も他の二町より少なく、明らかに町の様子が整っていると感じた。

またツアーでは、各町に住んでいた方から震災当日のお話や避難後
の生活など、ご自身の体験を語って貰った。
富岡町では語り部の方と1時間くらい町を廻った。やはり実際に震
災を経験してきた人の話はリアルである。震災当時の事から現在の
状況、本人の気持ちまで語ってくれて、当事者でしか分からない気
持ちを聞くと切ない気持ちになるのだ。最後は夜ノ森の桜並木を訪
れるのだが、4月の桜並木の美しさを語っている時の穏やかな顔は
震災を語る時の厳しい表情とは違い忘れられない。

浪江町春卯野に住む牛農家の方の話にも圧倒される。
震災当時、春卯野の牧場で330頭の牛を飼い暮らしていたが、原発
の事故で一瞬にして牛が被爆をし、商品価値を失った。それでも牛
の命を尊重し、今でも被爆した牛を飼い続ける。商品価値のない牛
を飼い続ける事に、今でも意味があるのかないのか自問自答している。

浪江町の花農家の方は、実際に請戸に住んでいて、町の消防隊員の
メンバーだった人。震災当日も消防隊員として何人もの救助をして
走り回った経験を語ってくれた。現在は、花農家をしながら浪江町
で暮らしている。トルコキキョーなどの市場で需要の高い花を育て
ている。近くに花の栽培を指導してくれる先輩農家さんがいらっし
ゃり、他の農家さんと一緒に花農家のコミュニティーが出来ている

今年の東京オリンピックでは、各競技の勝者にメダルと共に送られ
るブーケに福島の花も使われるらしいのだ。オリンピックではメダ
リストのブーケにも注目したい。

楢葉町では、若い20代・30代の若者が東京など大都市から引っ越し
、新しいコミュニティーを作っている。
彼らの中には、福島での生活の方が充実しているとキッパリと言う
人もいる。希薄な都会の人間関係より、福島での人間関係のほうが
濃く生き生きしているのだ。
そして、楢葉町のJヴィレッジで一泊したのだが、夜の満点の星空
は忘れられない。参加者の皆さんと星空を見上げながら東京では見
られない夜空に感激した。
オリンピックのトーチリレーも3月より始まり、Jヴィレッジよりス
タートする。

福島の震災は、地震の大きさも大きく、想定外の津波が沿岸を襲い
、原発での放射能事故がおこり、地元の人たちが何年も家に帰れな
いなど、特別な災害に思うかもしれない。
しかし、前述したが世界中の多くの人がすでに感じているように、
地球温暖化による気象変化、台風や大雨での被害も年々大きく深刻
になっている。環境問題、食糧問題、エネルギー問題、水問題など
地球上には様々な問題があるのだ。
この福島のツアーは改めてこの様な問題を考え、震災を経験した福
島の人々の話を聞き、自分の生活スタイルを見直すいいチャンスな
のだと思う。

コメント

タイトルとURLをコピーしました