2018年1月4日施行の改正通訳案内士法により、通訳案内士の資格を保持してない人でも有料で外国人へガイド業務が出来るようになりました。
とはいえ、もちろん通訳案内士という国家資格が無効になったわけではありません。むしろ、この数年間で全国通訳案内士試験の合格率がかなり下がっているのですが、国全体として、難易度を高くすることで国家試験にしっかりと通って、有資格者として活躍する人の地位を向上していこうという狙いがあるようです。
資格取得を目指している人はもちろん、資格取得は特に考えてないけどガイド業には興味があるという人にも、ご参考までに通訳案内士とはどんな仕事か、通訳案内士になるにはどのようなステップを踏んでいったらよいのかをまとめてみたいと思います。
【ガイドライター】
齋藤 一美(さいとう かずみ)
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2016年に英語全国通訳案内士資格取得。通訳ガイド派遣会社でのコーディネーター職を経てフリーランスの通訳ガイドに。コロナ禍の現在は前職の介護福祉士として高齢者ケアの仕事に従事中。グーグルマップを見ながら妄想旅のプランをあれこれ練ってるときが至福の時間。
全国通訳案内士とは?
全国通訳案内士とは、訪日外国人観光客をご案内する外国語ツアーガイドです。
英語だけでなく、中国語、韓国語、スペイン語、フランス語、ドイツ語など、他の言語の需要も年々増えています。
法改正により無資格でもガイドが出来るようになったのですが、国家試験である全国通訳案内士試験に合格した方のみ、「通訳案内士」を名乗れます。
日本文化や歴史、ご案内する地域の知識はもちろんのこと、様々なゲストに対応できる柔軟さや、ホスピタリティが重要となるお仕事です。
ゲストを楽しませ、日本を好きになってもらえるようなエンターテイナーであること、そして予定通りにツアーを進めるためのタイムマネジメントも、通訳案内士として働く上で大切なスキルになります。
ガイドによってゲストが抱く日本のイメージが決まってしまうかもしれない、まさに日本の顔ともいえるやりがいのある仕事です。
通訳案内士に資格は必要?資格と難易度
全国通訳案内士試験とは
2018年の法改正後、通訳案内士は「全国通訳案内士」と名称が変更されました。
一次試験は筆記試験で科目は「外国語」「日本地理」「日本歴史」「一般常識」と、2018年より新たに加わった「通訳案内の実務」の5科目です。そして二次試験は口述試験になります。
ここ10年間は合格率がだいたい15%〜25%くらいと比較的高めになっていましたが、2018年以降は10%を切っており、難易度が高まっている傾向にあります。
2022年度の全国通訳案内士試験日程
全国通訳案内士試験に合格するために必要な準備期間は、試験日から逆算して1~2年以内です。
語学に自信があっても、歴史や地理の壁にぶつかる方は多くいるようです。
試験の免除制度などを上手く使いながら、万全な対策をして挑みたいところです。
通訳案内士の資格のメリット、デメリット
資格がなくても有料でガイド業務ができるようになったのに、わざわざ大変な思いをしてそんな難関試験に挑戦するのは時間の無駄と思う人も多いはず。
実際、資格がなくても十分に集客する力やネットワークを持っている人には必要ないと思います。
ただ、通訳案内士と名乗れるのは有資格者だけで、類似する名称も認められていません。通訳案内士の人に負けないくらいの能力があると自信があっても、例えば「エクセレントガイド」や「トップガイド」「スペシャルガイド」など、高品質なガイドであることをアピールすることも一切禁止されているので、何となく悔しい気持ちになることもあるでしょう。
「どのようなガイド業務をしていきたいか」も、資格が必要かどうかの判断基準になると思います。まず大手旅行会社の仕事をしたい場合は資格が必須となるでしょう。
ロングツアーや富裕層向けツアー、インセンティブツアーなどをいつかやりたいと思っている人も、資格取得を目指された方がよいと思います。
無資格でも活躍できる、2時間程のショートツアーや日帰りツアーなどを催行する旅行会社も増えてきています。ロングツアーや富裕層ツアーなどより、もっとカジュアルなツアーでガイド業務が出来れば十分満足という人は、必ずしも資格は必要ないかもしれません。
AirbnbなどのC to Cプラットフォームや自身のサイトなどで個性を生かしたツアーを企画して集客したいという人は、資格の有無に関わらず(それ以上に?!)マネージメント力や企画力、自分をアピールする能力などが必要になってくるでしょう。
通訳案内士の仕事内容
通訳案内士の仕事内容は、
ざっくり言うと外国から訪日したお客様を外国語で観光地などへご案内し、日本の歴史や文化、生活などをご紹介することです。
また仕事の内容は、個人旅行のお客様か団体ツアーか、また、1日で終了するツアーか数日間に及ぶツアーかで仕事内容は大きく変わってきます。
ツアーのタイプも多岐にわたります。日本全国を巡るロングツアーから、観光地1か所のみを専門にガイドするスポットツアー、フードツアーなどの体験ツアーまで、様々です。
なお、団体ツアーのガイドをする場合は旅程管理主任者の資格も必要になります。
そのほか空港や駅、ホテルまでの送迎や新幹線への乗せこみなどの斡旋業務もあります。
1年のうちで春と秋が繁忙期になりますが、特に桜の季節は凄まじい数の外国人旅行者が日本を訪れ、ツアー案件も爆増します。
通訳案内士の仕事のはじめ方・流れ
まずは新人ガイド研修を受ける
通訳案内士(ガイド)の資格を取得したら先ず新人ガイド研修を受けることをお勧めします。今まで旅行業界や外国人の方を案内するようなお仕事をされていた経験がない人にとって、試験勉強で得た知識だけだと実際にガイド業務を行うのはちょっと難しいかもしれません。新人ガイド研修では通訳案内士(ガイド)業務の全般や流れなど、非常に多くを学ぶことが出来ます。同期の仲間ができることも大きなメリットです。また大手の旅行会社などでは新人ガイド研修を受講していることが必須条件である場合もあります。
新人ガイド研修は主に以下の通訳案内士団体で開催されています。詳細については各団体のサイトなどをご覧ください。
- IJCEE ( 新日本通訳案内士協会 )
- JGA ( 日本観光通訳協会 )
- JFG ( 協同組合 全日本通訳案内士連盟 )
- GICSS ( NPO法人通訳ガイド&コミュニケーション・スキル研究会 )
- JWG (JapanWonderGuide)
JapanWonderGuideの新人ガイド研修
JapanWonderGuide (JWG)は、インバンド向けの旅行会社「株式会社ノットワールド」が運営しており、大型バスによる団体旅行ではなく、欧米豪圏の個人旅行者を主なターゲットとしたツアーを展開しています。コロナが収束した後、団体でのツアーは減っていくと予測されているので、今後の、更なる少人数やプライベートツアー需要を見越した実践で役に立つノウハウを身につけることが出来ます。
2〜3月頃に新人ガイド研修を受講すると、終了したころには春の繁忙期に突入しています。猫の手でも借りたいほどガイドが不足する時期なので、新人さんにもチャンスが巡ってきます。新人研修を終えたばかりで不安がいっぱいでも、業務の依頼が来たときは勇気をもって引き受けると良い流れに乗ることができます。
仕事を受ける窓口を探す
とはいえ、もちろん新人研修を受講したあと、ただ待っているだけではどこからも話は舞い込んできません。各ガイド団体や旅行会社、派遣会社、CtoCマッチングサイトに登録するなど、積極的に行動しましょう。3〜4程度の窓口から仕事を得ている通訳ガイドさんが多いようです。
スキルアップを目指す
ゴールデンウィークを過ぎたころになると潮が引くようにツアー案件が落ち着きます。
その時はぜひブラッシュアップの期間にしましょう!
繁忙期にガイドの経験をした人は、自分に足りないスキルや必要を感じた知識などがより明確になると思います。研修に参加したり、書籍を読んだり気になる観光地などへ下見に行ったりして、スキルアップに励むとよいでしょう。
通訳案内士としての自覚がどんどん芽生えて自信を持って仕事ができるようになっていくと思います。
また、JWGの有料会員プラン、KNOTTERにお申込みいただくと、月額1,000円(税込1,100円)で、ガイドのスキルアップに役立つ有料コンテンツのE-Learningが無料で見放題となります!
エリア研修やコミュニケーション研修、テーマ研修など、全4回1回約15分程の講座を受け、最後に確認テスト(一部コンテンツのみ)を受けることで、しっかりと知識が身につきます。
通訳案内士の収入
なんとなく、通訳案内士がどんな仕事か、そして仕事を得るまでの流れが分かりました。
ここで、皆さんがもっとも気になることは、通訳案内士の仕事で食べていけるのか?ということかもしれません。
厚生労働省が運用する職業情報提供サイト(日本版O-NET)の統計データ(出典:令和2年賃金構造基本統計調査)によると、賃金(年収)の全国平均は382.4万円、東京都では435.1万円という結果が出ています。
また、少し古いデータになってしまいますが、観光庁が平成26年(2014年)に実施した「通訳案内士の就業実態等について」によると、約半数以上の通訳案内士の年収は200万円以下で、年収400万円以上と回答した人は全体の4%のみだったようです。
(コロナ禍以前になりますが)統計以降に訪日外国人が爆増したこと、c to cマッチングサイトのような業務形態も増えてきたことで、ここ数年で年収は少し改善されてきているようです。
1日あたりの日当は、旅行会社によっても差がありますし、旅行会社直属ガイドか派遣ガイドか、またc to cで仕事を得るか等で変わってきますが、だいたいの相場は1〜4万円程度です。
ごく一部のベテランガイドさんを除いて、多くのガイドの仕事は季節によって大きな変動があり、特に経験の浅いうちは仕事を依頼されるチャンスも限られているため、通訳案内士の仕事を専業にするのは今の段階では少し難しいかもしれません。
ただ専業、兼業に関わらず、コロナによって世界が変わり、現状まともにガイド業務が出来ていない通訳案内士がほとんどです。物は考えようですし、今は「副業&複業」が当たり前の時代です。
世の中がどんな状況になっても柔軟に対応して生きていけるよう、引き出しをいくつか持って、あまり専業に拘らない方が長く確実にガイドのキャリアを積んでいけるとも言えるかもしれません。
また、旅行もインバウンドも間違いなく戻ってくるとは思いますが、今までと同じようなスタイルには戻らないだろうと、恐らくほとんどの人が感じていると思います。
世の中のオンライン化が急速に進み、世界中の情報を得ることがより容易になり、今まで以上に個人旅行者が増えるだろうと予測されています。
今後はアイデアとやり方次第で、十分な収入を得られる可能性もあると思います。
通訳案内士に必要なスキル
柔軟性、信頼性
まず、語学力や文化や歴史に精通しているなど、通訳案内士として必要なスキルがあることはもちろん大切ですが、それ以上とも言えるくらい、旅行会社のアサイン担当は、ガイドさんの人柄や柔軟性、信頼性などを見ています。自分が旅行会社の担当者だったらどんなガイドさんにまた仕事をお願いしたいか、という意識で考えて行動されるとよいと思います。
トラブル対処力
また、外国人ゲストの方々に日本で心地よく楽しく過ごしてもらえるよう尽力することは当然ですが、わがままなゲストや、風紀を乱したり迷惑行動をするようなゲストも中にはいます。
そのようなゲストに遭遇した時に、毅然として対応し、相手が気分を害さないよう上手に必要なことを伝えたりすることもとても重要なスキルとなるでしょう。
気遣い
外国人ゲストだけではなく、旅行会社やホテル、観光地や地域の方々、レストラン、お土産屋さん、バスのドライバーさんなど、通訳ガイドの仕事には様々な人たちが関係しています。
「三方良し」の意識で、関わる人たち皆が気持ちよくなるような仕事ができる人は間違いなく人気ガイドになっていくでしょう。
以上のことを念頭に置きつつ、インバウンドが復活したときにスタートダッシュできるよう、ぜひブラッシュアップに励みましょう!
はじめてのツアーで意識したいこと
どんなガイドにとっても、はじめてのツアーは多少なりとも緊張すると思います。可能な限りの下調べや準備をすることはもちろん大切ですが、ツアー前夜はぜひともしっかりと睡眠をとって、本番に備えて英気を養ってください。
当日は、出来るだけ早めに現地入りしてゲストに聞かれそうなトイレやコンビニ、喫煙所、両替機などの場所を確認しましょう。ツアーのタイプや待ち合わせ場所などによりますが、ホテルの方々やバスのドライバーさんなどへの挨拶も忘れずに。
そして何より大切なのは「笑顔」です!緊張してるし、ガイドしなくてはならないことで頭がいっぱいになっているとどうしても表情が固くなってしまうと思います。しかし、ゲストだって異国の初めて会うガイドさんの前で、もっと緊張しているかもしれません。ぜひ素敵な笑顔でゲストを迎えてあげてください。
また、おそらく、はじめてのツアーでは自身で納得のいくガイディングは出来ないでしょうし、失敗することもあるかもしれません。
必要以上に落ち込まず、失敗を次に生かそうとする意識を持つことがとても大切です。
通訳案内士を目指す方におすすめの本
通訳案内士にとって必要な知識は本当に無限です。経験を積んでいるガイドさんほど、そのことを実感していると思います。
過去記事でもたくさんのおすすめの本をご紹介しているのでぜひご参考になさってください。その他、海外でも人気の漫画やアニメなど、サブカルについても詳しくなっておくとガイディングの幅が広がっていくと思います。
- 今のうちに読んでおきたい!通訳ガイドにおすすめの本20選
- 現役通訳案内士・ガイドさんに聞いた、おすすめバイブル本13選!
- 通訳ガイドに役立つ!コミュニケーション力が身につく本8選
- 接客業・サービス業に必要なホスピタリティを学べるおすすめ本10選
通訳案内士のキャリアプラン
通訳案内士としてどのようにキャリアを積んでいくか。ガイドとしてある程度仕事をするようになると改めて考える時期が来ると思います。「全国通訳案内士」は語学系唯一の国家資格ではありますが、仕事を始めてみると、語学の仕事という以前にサービス業であることが分かります。
天職だと感じエクセレントガイドを目指しガイド業一筋で生きていきたいと思う人もいれば、ガイド業から離れ、語学力を生かした通訳や翻訳などで活躍していく人もいます。
また、通訳ガイドの講師やトラベルデザイナーなど、ガイド業務だけに捉われず通訳案内士で培った経験と知識を生かしてキャリアを積んでいく道もあります。
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